経営者インタービュー詳細
VOL.107
- 投稿日:2023.5.24
- 編集日:2023.5.24
全ての判断基準それは役に立てるかどうか
有限会社村田堂
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代表取締役長屋 博久
大学を卒業してから、片道切符のつもりで大手生地メーカーに就職したんです。そこでは、カーペットの部署に配属されることになりました。会社自体は上場もしていましたから大きな会社だったのですが、私の所属部署は少人数だったので、企画から販売まで一貫して各個人が担当していました。そして、販売供給に当たっては会社が上場しているということもあり、安定供給が求められました。その安定供給をクライアントに約束するために、下請けの業者さんの選定が相当難しいんです。潰れそうじゃないか?とか。後継者がしっかりいるか?とかそういう所にまで気を付けないといけませんでした。そして、企画から販売、下請け業者さんの選定まで一人で行うような多忙な日々を送っていた時にふとこんなことを思ったんです。「実家の村田堂は将来安泰なのか?」と。それから、先代社長である父と村田堂の将来について話したところ、少子化や学生服のマーケットの縮小のことを思って父の代で終わりにしようと考えていたことが分かったんです。その時私は、「将来、今の会社に居ても苦労するだろうし、家業を継いでも苦労するだろう。同じ苦労するなら、自分しか継ぐ者がいない家業に戻ろう。」と決めて、約11年勤めた生地メーカーを退職して2003年6月に家業に戻りました。
商売においては、そこに私や会社の役割があるのかどうかということを常に意識するようにしています。そして、それと同時に役に立つのかどうかということも意識しています。役に立つかどうかという基準については、商売のみならず何においても大切にしている基準です。損得とか売上や利益とかそういうことではなく、私や会社が役に立ちそうなことはどんどんやるようにしています。
学生服のメーカーさんや他の制服屋さんは沢山ありますが、私のように学生服の歴史を語れる人物は少ないと感じています。この知識や経験を「服育」という活動を通して啓発していくことが、100年以上制服と向き合ってきた弊社と5代目である私の役割だと考えています。売ろう売ろうという営業活動を行うのではなく、服育の活動を積極的に行うことで、学校の先生方に制服の歴史、会社、そして私を認識し、信頼頂くことで、回り回って結果的に、制服のご依頼を頂くという仕事に結びついています。
家業に戻って来た時が一番しんどかったですね。丁度、少子化に向っている時期で、地元の制服屋さんが主流であった時代から、大手メーカーが主導を握る時代へとなりつつありました。先代の父も家業を継ぐ前は長い間一般的な会社員をやっていたので、メーカーに頼る部分が多い「普通の制服屋さん」だったんですね。そんな普通の制服屋さんに、大手生地メーカーで企画から営業、販売まで一人でやっていた私が戻った訳ですから会社は劇的に変わりましたよ。「普通の制服屋さん」が「企画提案型の制服屋さん」へ一気に変身しました。
会社を継ぐと言えば、まず思い浮かぶのが自分の子供ですよね。弊社も多分に漏れず会社の存続については子供が継ぐか継がないかが重要なポイントになると考えています。しかし、私は子供にはまずは出て行けと言っています。というのも、学生時代から将来は家業を継いで社長になるというレールを敷いてそれを歩ませてしまうと、現在のようにとても厳しい時代に勝ち残ることは出来ないと思うんです。ですから、外に出て色々見て経験して、それなりのタイミングで自分の意思で戻ろうと思うのならば戻って来て後を継いでくれればいいと思います。その為に私に出来ることは、私の子供が継ごうと思ったタイミングで継げるような状態にしていくことだと考えています。
地域の活動、服育の活動、学生服の販売等々、何にしてもそこには自分の役割があって、その役割を果たすことで自分の存在感を感じることが出来るのがモチベーションに繋がっているように思います。また、それらで得られた知識や人脈を組み合わせることにより、今までになかった商品や活動になることもあります。人の役に立つ、人が喜ぶ新たなものを創り出す楽しさもモチベーションの源になっていますね。
弊社が販売したものがリサイクルされるようにするにはどうすればいいか。CO2を出さないために単純に燃やされないようにするにはどうすればいいのか。こういう事はよく考えています。最近で言うSDGsです。持続可能性を国内の学生服産業の中にも見出し、追求し、そして私に出来そうなことに全力で取り組んでいく。そんなことをやっていこうと考えています。また、学生服の文化そのものも後世に繋げ、そうすることで制服販売店もつぶさずに続けていく。国内の繊維産業の一翼を担う学生服において、その全ての持続可能性を念頭に私に出来る役割を全力で全うしていきたいと考えています。