経営者インタービュー詳細
VOL.147
- 投稿日:2023.5.25
- 編集日:2023.5.25
オーダースーツにはドラマがある
株式会社加藤重
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代表取締役加藤 陽一
私は、母を高校3年の卒業式の後に白血病で亡くしていて、20歳のときに父も病気で亡くしているんです。その時、私は大学生だったのですが、父のお葬式の日の夜の親族会議で私が後を引き継ぐことが決まったんです。当時の私はと言うと、大学を卒業したら海外で仕事がしたかったんです。特にアメリカに住んで仕事がしたかったんです。それが急転直下とでも言いますか、大学を辞めて家業に入ることになったんです。最初は当然、右も左も分からない状態で大変なことも多かったですが、仕入先や得意先の皆様に助けていただき、仕事のいろはや色々なことを教えていただきました。事業を継いだキッカケはこのような経緯でしたが、そんな私も代表に就任して来年で50周年。そして、弊社は創業100周年を迎えます。
いい節目ですから、4代目に当たる息子に事業継承をしようと考えています。息子は、他社で縫製から販売まで一連の流れを約6年程かけて勉強してきました。そして、ここに戻って来て6年程経ちます。その時間の中で家業の事を学んではいますが、加藤重や私のやり方を押し付けるつもりはなく、彼には彼の考え方ややり方がある訳ですから、それを尊重して次世代を託したいですね。
昨年からリモートワークという新しい働き方が出てきたことによって、スーツを着ることが無くなりました。これによってスーツの販売量が減ったように感じています。しかし、これは単純にスーツが売れなくなったということにとどまらない問題のように感じています。と言うのも、十数年前から導入されている地球温暖化を意識したクールビス。そして、昨年からのコロナ禍で出てきたリモートワーク。これらをきっかけに人に見られるというシーンが減って、外見への気遣いが極端に減ったように思うんです。これによって、自分自身を表現するということや、自分そのものが無くなってしまっていっているような気がしているんです。服の在り方だけが変わるのではなく、心の在り方までもが変わっていっているように感じています。
オーダースーツにはドラマがあるんですよ。何の理由もなくスーツを作りに来られる方はいらっしゃらないんです。なにかしらの理由があって皆様スーツを作られるんです。そんな思いや理由をもってお越しになられるお客様のためになることなら何でもしたいと考えています。私たちの仕事は、お客様ありきですから。どこまでいってもお客様本位で、お役に立てればいいと考えています。生地を卸す小売店様にしても、オーダースーツをお求めいただく個人のお客様にしても、喜んでいただく対価としてお金を頂戴する訳です。ですから、喜んでいただかないといけません。そして、一社でも多く、一人でも多くのお客様に喜んでいただくため、常に社会に求められる仕事内容にしていかなければなりません。
仕事以外の仕事とでも言いますか、頼まれごとのようなことをしている時間が長いです。「頼まれごとは試されごと。」なんて言いますが、頼まれたことはどんどんやれば良いと思っているんです。ですから、私は、何かやって欲しいと頼まれたら出来る限り断らないように心掛けています。そうしていれば、そこには信頼が生まれますし、まわりまわって結果的に仕事に繋がることが多いです。値段が安いとか高いとかではなく、それ以上に人とのつながりや気持ちが大切だと考えています。先程のお話にも通じるのですが、「どこまでその人に対してサービス出来るかが重要」で、ただ服を作るのではなく、そこに付く付加価値が重要で必要だと考えています。頼まれたことをやりながら、このようなことを考えている時間が長いですね。
「これからの新しいオーダースーツ」というテーマで、こことは別の場所に新しいお店をつくろうと計画しています。今までは、原反生地や小さな生地のサンプルを見て全体をイメージしてオーダースーツを作っていましたが、小さい生地を選んだ場合全体がイメージしにくいので、大画面に選んだ生地で仕立てられたスーツの立体的なイメージ画像が映し出されるというシステムを京都や大阪で初めて導入しました。そうすることで、お客様ご自身で自分の洋服をデザインして作ることが出来ればとても面白いと思いますし、そんなことを出来る機会を提供したいと考えています。そして、「重太郎会」という会を開き、お客様相互が交流できる場所をつくることも計画しています。皆様の人生を洋服を通じて共に歩む重太郎でありたい。そんな風に考えています。また私は、人と会うことや、皆でワイワイすることが好きなんです。「こんなことが出来たら楽しいかな?」と思うことをやっていければ楽しいと思いますし、そういうことを考えて企画してどんどんやっていきたいと考えています。